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[欄外コラム(14)] シングル「嘆き」と「スマイル・フォー・ミー」の連続リリースに関する疑問
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シングル「スマイル・フォー・ミー」のページ等で当時のリリース状況については触れましたが、実はそれには疑問があるので、この欄で補足検討したいと思います。
1969年7月5日発売のシングル「嘆き」 1969年7月25日発売のシングル「スマイル・フォー・ミー」
1969年7月5日にシングル「嘆き」が発売された後、続けて7月25日に「スマイル・フォー・ミー」がリリースされたのだが、これほどの発売間隔の短さ(ほとんど同時発売)は、他のタイガースのシングル・リリースには見られないことだ(タイガースに限らず、当時は人気歌手でも大体3か月毎のシングル・リリースが標準)。

もっとも、7月12日には英国・ロンドンにロケした映画 『ハーイ!ロンドン』が公開されているので、そこにも登場する世界的に有名なビー・ジーズのバリー・ギブ等がタイガースのために作ってくれたオリジナル曲「スマイル・フォー・ミー」をタイアップとしてスペシャル・リリースするということは、大いにあり得ることではあった。

ところが、当時の渡辺プロのファンクラブ誌『ヤング』の記事では、「スマイル・フォー・ミー」は海外のみの発売とされていたし、また常に掲載されていたタイガースのシングルの広告も「嘆き」はあったが、「スマイル・フォー・ミー」に関しては無いままだった。

確かに商品を受け取る側としては、「嘆き」が今ひとつの売れ行きなので急きょ「スマイル・フォー・ミー」を発売した、と思えるのだが、しかし、製作側の事情を考慮するならば、「嘆き」の売れ行きを見てから「スマイル・フォー・ミー」の発売を検討するのでは、時間がまったく足りない。
それを考えると、「嘆き」の発売前から「スマイル・フォー・ミー」のリリースは準備されていたとしか思えないのだが…。

そこで、この時期のレコーディング状況を振り返ってみると、まず 5月21日に「嘆き」「はだしで」「Lovin' Life」の3曲が録音されている。 そして5月下旬から映画撮影を兼ねて渡英し、ロンドンで「スマイル・フォー・ミー」「RAIN FALLS ON THE LONELY (淋しい雨)」を録音。 ここで注目されるのは「Lovin' Life」がタイガースのオリジナル曲としては初の英語詩ということで、これが「スマイル・フォー・ミー」のカップリング候補だった可能性はないだろうか。

それと、「嘆き」は完全な沢田研二のソロであり、「はだしで」も申し訳程度のコーラスが入っているだけということも疑念を抱かせる。 タイガースの長所の大きな1つは幅広い声域をカヴァーするメンバーによるコーラスにあったはずだが、いきなり(のように)ジュリーのソロ曲がタイガース名義でリリースされたわけなのだから。
一方、結果としてオクラ入りした「Lovin' Life」では、かなりコーラスがリード・ヴォーカルと絡んでおり、タイガースらしさが色濃い。 もちろん「スマイル・フォー・ミー」もタイガースのコーラス・ワークは生かされた仕上がりだった。

また、当初はジュリー主演映画の企画があったが、実現しなかったために、タイガース主演映画として映画 『ハーイ!ロンドン』が製作されたと、同じく『ヤング』の記事で触れられている。
以上の情報から、以下は例によって筆者の推察です。

当初の構想としては、あくまで主演は沢田研二で、タイガースの他のメンバーはゲスト的に登場するロンドン・ロケの映画を製作、そこで使われる曲「嘆き」「はだしで」をジュリー名義のソロ・シングルAB面としてリリースすると共に、「スマイル・フォー・ミー」「Lovin' Life」はタイガースのシングルAB面として発売する、ということだったのではないか。
映画タイアップということで同時リリースの必然性もあるし、タイガース・ファンの不安も和らげられる(誤魔化すことが出来る?)。 また、この2枚は曲調も異なり、片方は英語詩の曲ということで、明確に差別化されてもいる。

もちろん、この初ソロ・シングルのリリースは、下降線を描き始めたグループ・サウンズ・ブーム、そしてタイガースの将来を見越してのもの。 おそらく、タイガース解散に至る以前のなるべく早い時期から、ソロ・シンガーとしての沢田研二の可能性(商品価値?)を計っておくというつもりがあったと思われるのだが。

で、もしもジュリーが独立心旺盛な性格だったならば、単独主演映画やソロ・シングルも直ちに実現したのだろうが、当時ジュリーはあくまでバンドのリード・ヴォーカルということでやって行きたかったようで抵抗が強く、その折衷案として、今回の映画は(主演格はジュリーに決まっているにしても)タイガース主演として製作、またジュリーのソロ「嘆き」はタイガース名義として発売し、「スマイル・フォー・ミー」はその後のある時期に(海外でヒットしてから?)リリースする、という線に落ち着いたのでは…。

一方、ロンドン側は、日本から持ち込まれた「Lovin' Life」のテープを聴いた上で、ちょっと弱い、ないしは「スマイル・フォー・ミー」と似た曲調だからいう判断で、管理曲ストックの中から「RAIN FALLS ON THE LONELY (淋しい雨)」を追加録音した(これは印象的な佳曲ではあるが、しかし英国等では、当時のビー・ジーズらしさにあふれた「スマイル・フォー・ミー」をB面に回して、この曲がA面になっていたとは、実に意外。 それとも、ビー・ジーズも何らかの形で発売するつもりがあったので、敢えてそうしたものか?)。

もっとも、日本においては、先に出す「嘆き」が大ヒットの気配を見せれば、それを邪魔するが如き「スマイル・フォー・ミー」のリリースは9月頃まで延期されたのだろうが、やはり「嘆き」は発売前の反応も今ひとつだったので、これまでのタイガースの勢いを止めないようにと、映画公開にも合わせて直ぐに「スマイル・フォー・ミー」も発売することに決定。

で、結果としては、「スマイル・フォー・ミー」は英語詩をものともせず、というより、むしろ舶来品とブランドに弱い日本人に「ロンドン録音」「ビー・ジーズ作品」と大いに訴えて、「嘆き」を上回るセールスを記録。 今までのタイガースのシングル・リリースの例にもれず、途中は紆余曲折があったにしても、結局は狙ったレベルに落ち着くという見事さを示した。

しかし、タイガースとしてこそのパワーを見せつけられたにしても、やはり沢田研二のソロ・シンガーとしての将来の布石を打っておくべきことを確信している(ないしは、そうに決めている)渡辺プロ側は、かねてからの設計図通り、ついにバンドとしてはタブーのはずの、ジュリーのソロ・アルバムに着手することになる…。
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